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マジック事件

テーマ「家族」からは少しそれてしまいますが、中学校時代の思い出を少し書かせてもらいます。


ぼくが通っていた中学校は、男子は坊主頭でした。
髪は自宅で母親に刈ってもらっていました。
ある時、いつものように、洗面所へ新聞紙を引き鏡に向かい、うしろから母親がはじめの一刈目を入れた直後、

「あぁ・・」

という声が聞こえ、手がピタリと止まりました。

「どうしたん?」

と聞いても返事がありません。手で触ってみると、

一部分髪がない!

バリカンには3ミリ、6ミリ、9ミリというふうに、切り替え式のキャップを付けて頭を刈ります。
そうです。母はキャップを付け忘れて頭を刈ってしまったのでした。左寄りの後頭部からつむじあたりまで肌がむき出しになっていて、後頭部のみ、逆モヒカンのような状態。

あまりのショックに、ぼくは泣きました。
母も泣きました。

少し落ち着いてから、どうしたら違和感なく学校に行けるかということをふたりで考えました。
一つ目の案は「包帯を巻く」でした。
頭をぶつけて仮我をしたということにして、包帯をグルグル巻きにすれば、後頭部の恥部を隠すことができます。ただ、それにはひとつ問題があって、目立ち過ぎるということでした。頭に包帯を巻いて学校へ行ったとして、みんなのリアクションを想像してみると、当時のぼくにとって耐えられるものではありませんでした。包帯案は却下です。

次に考えたのが、「マジック案」。
肌をむき出しになっている部分は白く、他は髪で真っ黒です。白い部分を黒く塗ればなんとかごまかせるのではないか。それが母とふたりで考えに考え抜いて出した案でした。
早速マジックを塗ってみると、これが予想以上に他と溶け込み、これならなんとかなるかもと、母とぼくは少し元気を取り戻しました。
とは言っても、ばれた時のことを考えると、やはり学校へは行きたくありません。そんなぼくの心を父は察していたのか、自転車通学のぼくのあとを車でついてきました。もう逃げ場はありません。マジックを信じて学校へ行くのみです。

学校の駐輪場へ自転車を止めて、いよいよ、勝負の時がきました。
ヘルメットを取った瞬間、

「あーー!」

と友達が声を上げました。
(え?そんなはずはない。入念にマジックを塗ったはずなのに・・)

「どうしたがよ?!頭ズルむけやにか!」

予想外のことが起こりました。
なんと、汗でマジックがとれてしまったのでした。
ショックです。とてもショックです。母とぼくの考えに考え抜いた名案はもろくも敗れ去りました。
でも、友達の笑い声がぼくを吹っ切らせてくれたのか、それほど苦痛はなくなりました。「頭ズル向けがなんだ!」という精神状態にまで、友達がもっていってくれたのかもしれません。

教室へ入っていくと、みんながぼくの頭を見にきました。他のクラスからもぼくの頭を見物しに何人もやってきます。そうこうしているうちに、吹っ切ったはずのぼくの心はどんどん弱まっていきます。ついには、先生まで介入してきて、「笑った人は謝りなさい」と言い、数人が微妙な表情でぼくに謝る姿をみて、ついに限界点に達しました。

なんとしてもここから逃げ出す。

お腹が痛いとか風邪気味という理由では、父にこっぴどく怒られてしまいます。
どうしたら家に帰れるか?
ぼくがとった行動は、正常な状態では考えられないことでした。

コンクリートに肘をぶつけて折る。

あまりにも痛々しい話ですが、人はアドレナリンを放出し過ぎると、なんでもやってしまうようです。泣きながら何度もコンクリートに肘をぶつけました。

保健室へ行き事情を話し、家に帰ってすぐに病院へ行きました。
看護婦さんに「頭はどうしたの?」と言われて、キャップを付け忘れて刈ってしまったことを言うと、ぼくに強く同情してくれて、「えらいね」と言われたことをよく覚えています。肘は骨折まではしていなくて、ヒビが入ったということでした。石膏をつけてもらい、帰宅したぼくは、キャップなしで完全に丸刈りにしてもらいました。初めからこうしていればよかったというのは後の祭り、とにかく、身も心もスッキリした状態になって、心新たに翌日から学校へ行ったのでした。


親子ふたりで泣いているシーン、
真剣にマジックを塗っているシーン、
それに満足しているふたり、
泣きながら肘をぶつけているシーン、
翌日、ツルツル頭に石膏をしているシーン
どれをとっても、尋常ではありませんが、この出来事を思い出すたびに家族で笑い転げています。

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