だから私は恋をする

「心から好きな人ができたら、本当に胸が痛くなるんだよ」

とは私の母の口癖。

幼馴染への初恋や、部活の顧問先生への憧れの気持ちや、初めて付き合ってくれといわれて舞い上がった思い出。
友情と恋愛感情との間に揺れたこと。
自分を再構成するかのような恋、好きと思うだけじゃ続けられない恋の経験もあった。
そのたびに、母は私の思いを見透かしたように言ったものだ。
「心から好きな人ができたら、本当に胸が痛くなるんだよ」

私もお年頃になるにつれ、こんな思いをするなら恋なんてしなければよかったと思ったことだって、あるわけで。
不思議なことにそれが終った頃から、母はその口癖を言わなくなった。
見透かされていたんだろうか。
恐るべし、母。


ただ楽しいだけの、ただときめくだけの恋はもうできないと知ったとき、人は、「本当に胸が痛い」という経験をする。

大事なのは、その痛みをどうするか。
その痛みが何に起因しているかを見つめられるかどうか。
総合的複合的に絡まっている痛みをひとつひとつほぐしていった時、最後に残るのは何だろう。
何を選び、何を捨てるか。
それによって、次の生き方が決まる。「私」の成長がある。

失った温もりや、過去を思い出す痛み。
相手を責めたくなる痛み。
傷つけられたプライドの痛み。
自我が壊れてしまいそうな痛み。
先を憂う痛み。
自分を責める痛み。

何が悪かったんだろうと考え、相手のせいだけにするか。
自分のこととして引き受け、省みるか。
その選択の差が、終った恋を腐らせるか新しい種に変えるかの差だろうと思う。

多分、この世界のたいがいの人は、恋をする。
そこには、教科書では教えてくれない大事な気づきがたくさんたくさん用意してある。

恋をして胸が痛いのは、その気づきが生まれる痛みなんだろうな。

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