心の中の怪物
- 2010年02月17日(水) 文:sakulla
- 仏声人語
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sakullaの出産記録・エピソード7
在胎週数の短い赤ちゃんには様々なリスクが付きまとう。
その中でも発症する確立が一番高いのが【未熟児網膜症(ROP)】という目の病気である。
私は未熟児の赤ちゃんを持つまで、生まれつき目が見えないというのは、赤ちゃんに先天的な問題があったからとばかり思っていた。
だが、そのうちの数割はこの未熟児網膜症によるもので、調べるうちにスティービー・ワンダーもこの病気による後天的な失明だということを知った。
早産児はあらゆる機能が未熟な状態であり、特に肺は最後に完成する臓器のため、人工呼吸器の助けがなければ死に至る。
赤ちゃんの肺の成長度によって、供給される酸素の濃度が異なるのだが、この酸素濃度が高いほど、網膜に【新生血管】という異常な血管が増殖しやすくなるという。
これが【未熟児網膜症】という病気。
重症になると網膜剥離を起こし、処置が追いつかなければ失明する。
検査をするには、10分おきに目薬を差し瞳孔を開いた状態にして、赤ちゃんが暴れないように数人がかりで押さえつけながら、眼科医が強い光を当て慎重に診察する。
その間、親はNICUの外の廊下に出され、我が子の悲鳴にも似た泣き声を聞きながら、祈るようにして待つ。
生後3週間目にして最初の診察。
診断は灰色…新生血管が増殖しそうな気配が見られるため、経過を見て処置をすることになるだろうとのことだった。
聞いた瞬間、目の前が暗くなった。
自分たちの子供の目が見えなくなるかもしれないなんて、考えたくもなかった。
たくさんのチューブに繋がれて、ただでさえ苦しい思いをさせているのに…。
さらに辛い思いをさせなきゃいけないのかと、夫婦で泣いて謝り続けた。
そんな私たちの横で、「問題なし」という診断結果を聞いた違う赤ちゃんの両親が、辺りをはばからず大きな声を上げて喜んでいた。
私の中で、ドス黒い何かが蠢く。
「週数も体重も、ほとんど同じ赤ちゃんなのに、なぜうちの子が…」
問題のなかった赤ちゃんに対しては、本当に良かったねと心から思えるのに。
その両親の歓声は、私の感情を逆なでし、荒む心を止められない。
だが、保育器の中にいる我が子の小さな指が、私の人差し指をキュッと握った瞬間、憑き物が落ちたかのように我に返る。
【モンスターペアレント】という言葉がある。
我が子可愛さに、学校に筋違いなクレームをつけてくる親のことをいう。
私は、自分がそんな親になるはずがないと、正直タカをくくっていた。
だが、子供ができて、自分の中に怪物がいることに気付かされる。
我が子を思う気持ちが、他を傷つけていることに気付かず、同時に他を傷つけることをも厭わない、そんなドス黒い何かが自分の中には確かにあった。
クレームをつけるだけがモンスターではないということ。
母親になったことで、私は新たな怪物をお腹の中に宿したような思いがした。
だが、本当はそれ以前から私の中に怪物は普通にいて、それに気付こうとせず、善人面をさらしては、人を平気で傷つけていたのだろう。
そのことを、NICUの小さな赤ちゃんたちが一生懸命教え続けてくれた。
目の検査は2週に1回から1週に1回へと間隔が短くなっていった。
それは段々と新生血管が増殖していて、処置を施すか否かを注意深く観察するため…要は芳しくないということ。
そして、処置をしなくてはならないという診断結果が出たのは、生後52日目にして初めて保育器から出して、我が子を胸に抱くことができる日だった。
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