春の読書感想文


本屋で息子に買う本を探していると、むかし教科書で読んだ『ごんぎつね』が目に入った。
ちょうど一年くらい前か、この童話がネットの質問サイトに取り上げられていたことを思い出す。

兵十が病気の母親のために用意したウナギを、いたずら好きな狐のゴンはわざと逃がしてしまう。
その後母を失って落ち込む兵十を見てゴンは反省し、償いのために魚や栗を兵十の家に届けはじめる。
しかし、そうとは知らない兵十は、ゴンがまたいたずらをしにきたのだと勘違いし、ゴンを火縄銃で撃ってしまう。
そこではじめてゴンが食べ物を運んでくれていたことに気付くという話だ。

サイトにあった質問は、この話に対する小学生の姪の感想について。
クラスの子供たちの大方の感想は「ごんぎつねがかわいそう」というのに対し、質問者の姪はシビアな意見を述べたという。


「やったことの報いは必ず受けるもの」
「こそこそした罪滅ぼしは身勝手で自己満足でしかない」
「(兵十はゴンの反省を知らないのだから)撃たれて当たり前 」

子供らしからぬ感想が学校で物議を醸し、こういうときどうすればいいのかという質問だった。

一連の書き込みなどを読み、ゴンはさておき私は「シビ王と鳩と鷹」という仏教説話を思い出した。

昔、インドにシビ王という王さまがいた。
ある時、シビ王の元に一羽の鳩が飛び込んできて「鷹に追われています。私のいのちを助けてください」と頼み込む。
シビ王は慈悲深く、鳩を見捨てることができずに助けることを請け負った。
そこへ飛び込んできた鷹に王さまは見逃して欲しいと頼むが、鷹は「私は3日間何も食べていません。その鳩を私に返して、私のいのちを救って下さい」と言い、逆に頼み込まれてしまう。

鳩を渡せば鳩が死ぬ。鳩を渡さなければ鷹が死ぬ。

慈悲深いシビ王は鷹に向かって「私の肉を与えよう」と返事をする。
すると鷹は「その鳩と同じだけの肉を下さい」と言うので、シビ王は天秤を用意させ、片方に鳩を乗せ、もう片方に自分のももの肉を乗せた。
しかし天秤は鳩の方に傾いたままなので、シビ王は次に片足全部を切り取り乗せたが、天秤は微動だにしなかった。

そこでシビ王はふと気付き、自ら天秤に乗ると天秤はピタッと真ん中で止まり、鳩とシビ王の重さが釣り合った。
そうして己のすべてを鷹に差し出すことで、シビ王は鳩と鷹の両方を救ったというお話である。

ここにはシビ王の慈悲深さとともに、命の重さについて説かれている。
通常、この話は「鳩の命もシビ王の命も等しく尊い」「だから他者の命を大切に」で通り過ぎてしまうが、シビ王がふと気付いたことは、命は等しく尊いということだけだろうか?

1つの話を聞いて感じることがそれぞれ違うように、1つの命の価値についても感じることは一人一人異なるものだ。

鳩や鷹の命だけじゃなく、ときに人間同士であっても、軽んじてしまう命がある。
同じ命であろうとも、命の価値を自分勝手に決めている。

おらくシビ王が気付いたことは、自らの内にある命を差別する心だったのではないだろうか。
そして、自らの閉ざされた価値観への気づきであったのではないか。

シビ王にそう気づかせたものこそ「いのちは等しく尊い」という真理だったのだと思う。
真理を客観的にとらえるのではなく、心の闇を破る光として受け止めたとき、凝り固まった価値観が崩れるのではないか。

先ほども書いたが、同じ話を聞いても、価値観によって何を感じるかは人それぞれで、そこに正解はない。
小学生の感想も、その一例だ。

彼女の価値観にすべてを賛同することはできないが、ゴンの償いの仕方が自己満足だと評したのは、私にとっては自身を省みさせる一つの気づきにはなった。
そして撃たれて当然という感想に頷くことはできないけれど、状況的に撃たれても仕方が無いと思ってしまった自分がいる。
だが、ゴンを人間に置き換えたら、そう思うことはなかったはずだろう。

シビ王のお話から「命の重さに変わりはない」と気づかされても、そう思い続けられない私がいる。
命を差別している私が、再び照らし出されてくる。

小学生の感想についての良し悪しを語るのではなく、そこに照らし出された自分の姿を語り合うことが、子供たちのまだまだ柔軟な価値観を転換していく一つのキッカケになるのではないかと思った一件だった。

もっとも息子に買った本は「仮面ライダー鎧武」と「烈車戦隊トッキュウジャー」だったのだが、これはこれで今までのライダーや戦隊ものへの価値観を見事にぶっ壊してくれた笑撃的な作品なので、大人の私にもまだまだ柔軟性があることを再確認させてくれた良書であると言い張ることにする。
 

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