3月の読書感想文 『秘密 THA TOP SECRET』

学生時代から読んでいた本が実写化されるシリーズ第三段。

8月公開の映画『秘密 THA TOP SECRET』。

原作は白泉社発行の雑誌『MELODY』に続編が連載中の『秘密 THA TOP SECRET』(清水玲子)という漫画である。

 白泉社『秘密』HP http://www.hakusensha.co.jp/himitsu-eiga/
 映画HP http://himitsu-movie.jp/


舞台は近未来。
犯罪捜査に「MRI捜査」という手法が取り入れられたことによって展開する様々な事件と、それに関わる人間模様が描かれた漫画である。

「MRI捜査」とは、アメリカ大統領暗殺事件から導入された手法で、死後一定時間内に取り出された脳をMRIスキャナーにかけ、一定の電気刺激を与えて脳を120%働かせ、死亡した被害者あるいは犯人の生前に見た目の記憶の全てをスクリーンに再現し、その映像を基に、捜査員が事件を解明していく画期的な捜査方法のこと。 (本文参照)

そして、日本においてこのMRIスキャナーによる映像記憶を手がかりに捜査・難事件の真相究明・解決をすべく設立されたのが、主人公の所属する科学警察研究所法医第九研究室:通称【第九】である。



殺された人が最期に見た光景。
殺した人が殺す瞬間に見た光景。

それらを知ることで、捜査の手掛かりとし、あるいは動機の解明の手掛かりにする。
だが、MRIスキャナーで映し出された光景が、法的な証拠となることはないというのが、個人的に一番興味深い設定だった。

MRIが再現するのは視覚の記憶である。
つまり、見たものを実際に記憶するのは目ではなく脳であり、目で見たものを判断するのも目ではなくて脳である。
だから同じものを見ても、そこに個人の主観が介在するため、全員が同じものに見えているとは限らないというわけだ。

例えば惚れた欲目というように、好きな人が可愛く見えたりすることもあるだろう。
 UFOを信じる人には、衛星がUFOに見えているのかもしれないし、死者に対して後ろめいたい思いを抱えている人には、その人の霊が見えるかもしれない。

考え事をしているときに、思い浮かべている光景を実際の視界と重ねて見ることができるように、脳が作り出した「存在しない」ものも、実際に目に見えて「存在している」ということ。

人は見たいものを見る。

ゆえに、視覚の記憶は法的な証拠とはなりえないというわけだ。
…あくまでフィクションの話ではあるが。


だが、例えば「眼」という認識する器官と、「色」という認識する対象があったとして、それらによって発動する、認識する機能が人にはあるという考え方がある。

対象への判断や意味づけは、この認識する機能が作用する。
すると、認識する機能を通すことで、良くも悪くも現実や事実を自分の経験や意図に添って変化させることとなり、結果として認識機能を通した情報は仮のもので真理ではないということになる。

これは「十八界」という感官・客観・主観によって認識が成立することを示す仏教思想の一つなのだが、MRI
スキャナーの原理に限りなく近い。

フィクションとはいえ論理的になされた最先端の科学装置のシステム設定が、仏教思想をトレースするものであったことに、読んだ当初は興奮したのを覚えている。

だがこれは、物語のほんの一部のこと。
特筆すべきは、作者の画力である。

全てが美しいのだ。

登場人物も背景も、殺害現場もそこを染めるおびただしい血飛沫も、犯人の醜悪な表情も秘められた凶悪な殺意も、猟奇的な惨殺遺体も白骨遺体も、殺されたものが最後に見た絶望も……その全てが美しい。

だからこそ怖いのだ。

画期的な捜査方法ではあるが、手段の特異性ゆえ、第九は世間から強い偏見と反発に晒される。
そのうえ捜査員は、凶悪犯罪に関わる凄惨な映像と日々向き合うことで苦悩し、心を病む者も多く、自殺者・殉職者が後を絶たない。

読者に対し、「そうならざるをえない」という思いを揺るぎないものにするほどの説得力が、この作者の絵にはある。


殺されたうえ、脳を取り出され、プライバシーを暴かれる。
犯人逮捕と引き換えに、自らの意志もないまま秘密が白昼に晒される。

だが、秘密があるのは殺した側も同じこと。

パンドラの箱をこじ開けた先にあるのは、ハッピーエンドではありえない。
ただ、箱の中に残っているはずの希望の欠片を懸命に探すことで、綱渡りのように不安定な捜査員の精神バランスが保たれているのではないか。

そんなふうに私の主観は訴えている。


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