最初の願い

 

sakullaの出産記録・エピソード11

2年前の今日、息子がNICUを退院した。
生まれてから4ヶ月目にして、ようやく息子を我が家へ連れて帰ることができたのである。

 

ガラス越しの対面しか許されていなかった私の両親は、初めて触る孫に目を細めた。
そして、ドラゴンボールの魔道師ビビディのように変形した頭を目の当たりにし、一様に将来を心配した。
原因は、本来なら羊水の中を漂っている期間に、重力に押し付けられていたため。
仰向けで寝るとミルクを戻した時に危険だからと、横向きに寝かされていたことで、軟らかい頭蓋骨は後方へと伸びるように変形していた。

この頭は治るのだろうかと心配していた頃から、気がつけば2年がたった。
デコボコではあるけど、ほぼ丸くなった今の頭になった経過を思えば、あっという間のようでもあるし、濃密な時間を長く感じることもある。

先日、病院主催のNICU親子の会に参加してきた。
出生体重別で開催されたため、この日の参加者は超低出生体重児(超未熟児)の親子ばかりだった。

超未熟児の親は、我が子の成長に対してとても敏感になっている。
例えば、寝返りができない、ハイハイをしない、つかまり立ちをしない、歩かない、喋らないといったことがあった場合、普通の親なら「うちの子はのんびりなのね」と様子を見る余裕があるだろう。
だが、超未熟児がそのような発達が見られない場合、まず危惧するのは脳の損傷である。

NICUに入院した赤ちゃんは、必要に応じて何度もレントゲンを撮り、血液検査を繰り返し、退院前には脳波で聴覚を調べ、MRIで脳の損傷を調べる。
多くの未熟児は出生時に脳内出血を経験しているが、後遺症となるほどの出血でないことも多い。
だが、MRIで異常が見られなくとも、数年後に症状が現れる場合もある。

親子の会で同じグループにいた子供が、そういう例に当てはまっていた。
未熟児網膜症により失明。
2歳を過ぎても1人で座ることができずにいた。

喉元過ぎれば熱さ忘れるとは、よく言ったもの。
最初は「生きていてくれさえすればいい」と、ひたすら祈った。
命の危険が過ぎれば、脳の出血が広がらないことを、ただ願った。
次は自発呼吸ができれば…、次は四肢麻痺がなければ…、次は目が見えれば…。
寝返り、ハイハイ、つかまり立ち、一人立ち、歩くこと…平均からみればゆっくりで、言葉はまだ出てきてはいないけど、それでも息子は順調に発達のステップを上がっている。

なのに気がつけば、言うことを聞かないことに苛立ち、仕事を邪魔されることに腹を立て、思わず大きな声で静止の言葉を投げつけている自分がいた。

一つの願いという欲が満たされれば、次の新たな欲が生まれてくる。
欲とは、人間の心の内に巣くう毒の一つだと仏教は説く。
自分中心の考え方ゆえに生じる毒は、時に人を傷つけ、時に自分を苦しめる。

そうやって、相手の気持ちに寄り添うことをしないまま、次から次へと出てくる欲ばかりに気にとられていくと、人は最初に願ったことを忘れてゆくのだろう。
それが、どんなに必死に願った望みだったとしてもだ。

「お願いだから、死なないで」

生まれてきてくれたことを感謝する前に、願わずにはいられなかったことがあった。
その願いも忘れ、頭の形を心配できる余裕が生まれたことに感謝することも忘れ、自転車操業のように絶えることのない欲望のサイクルの中で、己の正しさだけを主張する自分の愚かな姿を、NICU親子の会に参加して気づかされた。

出生体重は近くても、その後の経過はそれぞれだ。
けれど、ここにいる母親たちは、産んですぐに我が子と引き離され、抱くことも叶わないまま保育器を前に涙を流した女性たち。
赤ちゃんが「生きて産まれる」ことも、「産まれて生きる」ことも、当たり前じゃないということを知っている女性たち。

私もその一人であるけれど…愚かな私は、またそのことを忘れるだろう。
だが、忘れても、立ち止まることができるかが大事なはず。
毒に蝕まれたままでも、毒を内に宿しながら生きているということを自覚し、そのうえで人と接していければ、変わる人生もあるだろう。
そういう【気づき】に現実感を与えてくれたのは、他ならぬ超未熟児で産まれた息子のおかげ。

長くなったが、私の出産記録は今回で終了。
ここまで付き合ってくださった方へ、最後に息子の出生週数と出生体重を教えようと思う。

在胎週数…26週0日 (満期40週)
出生体重…998g 



生きて産まれて生きてくれて、ありがとう。

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